看護師ライター北村由美
看護師として総合病院、地域病院、訪問看護ステーション等で約30年勤務。超低出生体重児から103歳の高齢者まで看護を経験。
自らが家族の介護を行う中「自分の知識、経験が困っている人の役に立てるのではないか」と考えるようになり、ライターを開始。「読者が共感できる記事」をモットーに医療・健康分野の記事、看護師向け記事を執筆している。
劇症型溶連菌感染症とは、溶連菌によって引き起こされる感染症です。発症後急速に悪化し、手足の壊死(えし)や多臓器不全を招き、死に至るケースも少なくありません。2023~2024年にかけて感染者が急増し、ニュースで大きく報じられました。糖尿病の方や高齢の方、妊産婦の方はリスクが高いとされていますが、該当しない方も発症するため注意が必要です。基本的な感染対策に加え、傷があるときは適切に処置をしましょう。
劇症型溶連菌感染症は、突然発症し、急激に悪化するのが特徴です。重症化するメカニズムは明らかになっていません。原因や感染経路を見ていきましょう。
劇症型溶連菌感染症は、溶連菌によって引き起こされます。溶連菌には、A群・B群・G群などの種類があり、主な病原体はA群溶連菌です。一般的な溶連菌感染症では、咽頭炎や皮膚炎などの症状があらわれます。しかし、通常は細菌が存在しない血液や筋肉、肺などに溶連菌が侵入すると、致命的な症状を引き起こす場合があるのです。
溶連菌による一般的な症状は発熱や喉の痛みで、子どもがかかりやすいとされています。一方、劇症型は子どもから大人まで発症し、とくに30歳以上で多いのが特徴です。
劇症型溶連菌感染症の感染経路は、ケガや手術などで皮膚の傷口から侵入する「創傷感染」と、喉や鼻の粘膜から侵入する「飛沫感染」の2通りです。感染者の約半数が、感染経路が不明とされています。
劇症型溶連菌感染症は、初期症状があらわれてから短時間で重篤な状態に陥ります。手足の強い痛みや腫れ、発熱があるときは、早めに医療機関を受診しましょう。初期症状と後発症状について解説します。
感染初期によく見られる症状は、手足の強い痛みや腫れで、急激に発症するのが特徴です。肺炎や髄膜炎、関節炎などを伴う場合もあります。明らかな傷口や、局所の痛み・腫れを伴わないケースが約半数あるとされており、注意しなければなりません。主な初期症状は以下のとおりです。
発症後は病状が急激に悪化し、24時間以内に局所の腫れや痛み、循環不全や呼吸不全に陥ります。多臓器不全などを引き起こし、死に至るケースも少なくありません。
日本における劇症型溶連菌感染症の最初の症例報告は、1992年です。以降、毎年100~200人の感染確認が報告されており、発症者の約30%が死亡しています。致死率が高いため「人食いバクテリア」と呼ばれることも。
近年、中高年を中心に感染者が急増しており、2023年には941人※と過去最多となりました。2024年はさらに感染者が増加。同年第1~24週(2024年1月1日~6月16日)までの劇症型溶連菌感染症は1,060例と、1999年に感染症発生動向調査を開始して以降、最も多い報告数でした。
2024年6月時点でのA群溶連菌による劇症型溶連菌感染症は、656例報告されており、30代以上の届出数が多い状況です。推定感染経路は、創傷感染44%、感染経路不明35%が大きな割合を占めています。
合わせて注目したいのは、子どもを中心に流行する溶連菌感染症です。2024年6月時点の定点当たり報告数は、過去6年間の同時期と比較しても多く、溶連菌感染症が増えると、劇症型も増えると考えられています。
※速報値
感染症は、劇症型溶連菌感染症に限らず、免疫力が低下しているときにかかりやすく、誰もが発症する可能性があります。とくに、以下に該当する方はリスクが高い方です。
劇症型溶連菌感染症は、発症後急激に悪化し、多臓器不全を招くため、速やかな診断・治療が必要です。検査と並行して治療も開始しなければなりません。検査と治療について見ていきましょう。
検査は、原因となる細菌の判定や全身状態の把握のために行われます。血液培養検査や検査キットを使用した迅速診断、画像検査が中心です。
血液培養検査とは、血液を採取し、液体培地の入ったボトルに入れて数日間培養する検査です。本来は無菌であるはずの血液中に菌が存在しているかどうかを調べます。菌の種類がわかれば、有効な抗菌薬の選択が可能です。
綿棒などで喉の奥の粘膜を擦り、溶連菌が存在しているかどうかを調べる検査です。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の検査と同じ方法で行われます。
感染の原因が体のどの部位にあるかを、CTやMRIで調べます。ただし、発症後、早期の段階では、組織の感染徴候が明らかにならない場合もあるようです。
血液検査では、肝機能や腎機能、血液の凝固機能などを調べます。
治療では、入院による集中管理が必要です。抗菌薬の投与や壊死を起こしている部分の除去が行われます。
抗菌薬とは、細菌を殺したり増殖を抑えたりする作用のある薬です。細菌には効きますが、ウイルスへの効果は期待できません。抗菌薬はいくつか種類があり、劇症型溶連菌感染症では「ペニシリン系」が第一選択肢になります。
皮膚の軟部組織が壊死を起こしている場合は、壊死部分を切除する場合があります。感染拡大を防ぐために重要な処置です。
劇症型溶連菌感染症を予防するには、手指衛生やマスクの着用といった基本的な感染対策が欠かせません。また、ケガをしたときなどに傷口を清潔に保つのも重要です。それぞれ詳しく解説します。
食前やトイレの後、人や物に接触したあと、調理前などに、しっかり手を洗いましょう。石けんを使用し、ていねいに洗ってください。すぐに手洗いできないときのために、消毒薬を準備しておくのも有効です。外出時や溶連菌感染者と接触する際は、マスクの着用も心がけましょう。
劇症型溶連菌感染症の感染経路のひとつに、傷口からの感染があります。ケガや手術などで傷ができた場合は適切に処置し、清潔を保つのが大事です。傷ができたときは、以下の方法で処置しましょう。
一般的な溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌による咽頭炎で、とくに小児に多く見られます。一方、劇症型溶連菌感染症は、30歳以上の大人に多く見られ、重症化しやすいのが特徴です。溶連菌感染症が流行すると、劇症型溶連菌感染症も増えると考えられており、今後も流行状況に注意する必要があるでしょう。
感染対策には、特別な方法は不要です。手洗いやマスクの着用といった基本的な対策を徹底し、傷ができたときは適切に処置するようにしましょう。発熱以外に、局所の腫れや手足の痛み、意識がもうろうとするなどの症状があるときは、ためらわずに医療機関を受診するようにしてください。
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