医療ライター・薬剤師藤野紗衣
ドラッグストアや精神病院、一般病院に薬剤師として勤務。2022年よりフリーライターとして活動。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター1級。マクロビオティック料理とウォーキングを欠かさない生活を心がけている。
お腹の張り・ガス・便秘の原因は、食生活の乱れやストレスによる自律神経の乱れかもしれません。お腹が張って苦しさや痛みがあるときには、マッサージ・入浴・ガス抜きのポーズ・市販の整腸薬といったセルフケアで対処しましょう。
生活習慣を整えるセルフケアをしてもお腹の張りが続くときは、何らかの病気が隠れているのかもしれません。自己判断しないで、内科や消化器内科で診察を受けてください。
ガスが溜まっているかどうか、自分の状態をチェックしてみましょう。食事や会話の際に、無意識のうちに飲み込んだ空気は腸まで運ばれ、腸内細菌が食べ物を分解する過程で発生するガスと混ざり合います。
まず、自分の状態を確認してみましょう。食後に下腹がポッコリ出る、おならがよく出るといった症状がある場合、お腹にガスが溜まっているのかもしれません。
お腹に溜まるガスの正体は、主に「口から飲み込んだ空気」と、「腸内細菌が食べ物を分解するときに発生するガス」の2種類です。
私たちは食事や会話の際に、無意識のうちに空気も一緒に飲み込んでいます。飲み込んだ空気は腸まで運ばれ、善玉菌や悪玉菌といった腸内細菌が食べ物を分解する過程で発生するガスと混ざり合うのです。
通常、体内のガスのほとんどは腸の壁から血管へと吸収され、呼吸と共に肺から自然に排出されますが、約1割がゲップやおならとして体の外へ出されます。しかし、何らかの原因で発生と排出のバランスが崩れると、腸内にガスが過剰に溜まり、お腹の張りや苦しさを引き起こすのです。
生活習慣が乱れていると、お腹の張り・ガス・便秘を引き起こす場合があります。セルフケアをしてもお腹の張りが続く場合には、何らかの病気が原因となっている可能性も考えられるため、自己判断せず、専門医に相談するのが大切です。
お腹の張り・ガス・便秘を引き起こすのは、多くの場合、食生活の乱れや自律神経の乱れなど生活習慣によるものです。加齢により消化器官の働き自体が弱まっている場合もあります。
暴飲暴食や早食いは、食べ物が十分に消化されないまま腸に送られるため、腸内で異常発酵が起こり、ガスが発生しやすくなります。また、暴飲暴食は、胃腸の機能自体を低下させる原因。結果的にガスの排出能力が落ちてしまいます。
ビールや炭酸飲料の過剰な摂取も、お腹にガスを溜め込む原因となるため注意が必要です。
強いストレスを感じると、無意識のうちに唾を飲み込む回数が増える場合があります。たとえば、唾液と一緒に空気も飲み込んでしまう「呑気症」も原因のひとつです。昼から夜にかけて悪化するのが特徴とされています。
また、ストレスによる自律神経の乱れにも注意が必要です。乱れによって、腸の働きそのものを鈍らせてしまいます。
便秘によって大腸に便が長く留まると、悪玉菌が増殖してガスを発生。さらに、大腸の機能自体が低下している場合も多く、ガスがうまく排出されずに腸内に溜まり、悪循環に陥りやすくなります。
デスクワークなどで座ったままでいると、運動不足になりやすく、腸のぜん動運動が妨げられます。その結果、便やガスの排出が滞りやすくなるのです。また、腹筋の衰えも、便を押し出す力を弱める一因となります。定期的な運動は、腸に刺激を与え、働きを活発にするために欠かせません。
年齢を重ねると、胃や腸といった消化器官の働きは少しずつ低下します。胃酸の分泌量が減ると消化が不十分になり、腸のぜん動運動が弱まって便秘になりやすくなります。結果的に、ガスが溜まりやすくなってしまうのです。また、加齢によって腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスも変化し、善玉菌が減少すると腸内環境が乱れ、便秘を招くケースもあります。
お腹の張りの原因になる代表的な病気には、ストレスが関係するとされる過敏性腸症候群や、空気を過剰に飲み込んでしまう呑気症などがあります。まれに大腸がんが隠れているケースもあるため、症状が続くときには専門医に相談するのが大切です。
お腹が張っているときには、マッサージや入浴、ヨガのガス抜きのポーズをしてみましょう。腸の運動が活性化されて、ガスや便が排出されやすくなります。セルフケアをしても改善が見られない場合は、自己判断しないで医療機関を受診しましょう。
お腹を優しくマッサージすると、腸のぜん動運動が促されます。また、38~40℃程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かる半身浴は、腸の働きをサポートすると言われています。お腹周りを温めると、血行がよくなり、腸の運動が活性化されてガスや便が排出されやすくなります。リラックス効果も期待できるため、一石二鳥です。
文字通り「ガス抜きのポーズ」と呼ばれるヨガのポーズがおすすめです。仰向けに寝て両膝を抱え、胸にゆっくりと引き寄せるだけの簡単な動きです。腸を優しく圧迫して、溜まったガスの排出を助けます。リラックスにもつながるため、とくに就寝前にすると安眠にも繋がります。
お腹の不調を和らげるツボを刺激するのも有効です。食事の前後1時間や入浴の前後1時間は避け、「痛いけど気持ちいい」と感じる程度の強さで、息を吐きながらゆっくり押しましょう。
場所は背中側、ウエストの一番くびれたラインから指4本分ほど下で、背骨から左右に指2本分ほど離れたところです。両手を腰に当て、親指がツボに当たるようにして、体を少しそらしながら心地よい強さで押すのがポイント。大腸の働きを整えるツボとして伝えられています。
おへその中心から真下に指4本分ほど下がったところにあります。冷え・便秘・下痢など、お腹全体の不調に対して用いられることが多いツボです。人差し指や中指の腹を当て、息を吐きながらゆっくりと5秒ほどかけて押し、息を吸いながら離します。強く押しすぎないように注意しましょう。
足裏の土踏まずのやや上、足の指を内側に「グー」の形に曲げたときに、一番くぼむ部分にあります。全身の血行促進に役立つとされるツボです。親指の腹でやや強めに、3秒ほど押して離す動作を数回繰り返しましょう。
クッションや丸めたバスタオルをお腹の下に敷き、うつ伏せの状態で10分ほどリラックスしましょう。腹部が優しく圧迫されると、腸に刺激が与えられます。うつ伏せ寝の後、クッションを外して左右にゴロゴロと寝返りを5往復程度繰り返すと、さらに腸が刺激されてガスが動きやすくなります。
薬局で手に入る市販薬を活用するのも一つの方法です。ビフィズス菌・納豆菌・乳酸菌といった善玉菌が配合された「整腸剤」は、乱れた腸内環境を整え、ガスの異常発生を抑える助けになります。腸のぜん動運動をサポートし、便通を助けることが期待されています。
胃もたれなども伴う際には、健胃生薬や制酸剤を配合する製品を使いましょう。胃の働きを助ける、補助的な役割を担う成分が含まれています。
決まった時間に腹八分目を心がけ、善玉菌のエサになる食物繊維の多い食事を摂るようにしましょう。運動習慣やストレス対策、十分な睡眠といった基本的な生活習慣も、お腹の不調に悩まないためには大切です。
お腹の調子を整える基本は、規則正しい生活リズムです。なるべく毎日決まった時間に食事を摂るように心がけましょう。一度にたくさん食べると胃腸に負担がかかるため、腹八分目を意識してください。また、天ぷらやフライなどの脂っこい料理は消化に時間がかかるため、なるべく消化のよい食事を選ぶのが大切です。
食物繊維には水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、溶けにくい「不溶性食物繊維」があります。腸内の善玉菌のエサになるのは、主に海藻やきのこ類、果物などに含まれる水溶性食物繊維です。善玉菌はエサを分解して、腸のぜん動運動を活発にする物質を作り出します。
腸の働きのためには、定期的な運動が効果的です。激しい運動の必要はありません。例えば、少し息が上がる程度のウォーキングやサイクリングといった有酸素運動を、1日30分、週に3日程度から始めてみましょう。継続が何よりも大切です。
強いストレスは自律神経のバランスに影響をもたらし、胃腸の働きに影響を与えます。自分なりのリラックス方法を見つけるとよいでしょう。趣味の時間や入浴などでこまめにストレスを発散させ、日頃から溜め込まないように意識するのが重要です。
腸内環境を整えるのによい時間帯は、心身がリラックスし副交感神経が優位な夜です。睡眠不足が続くと、腸内細菌が十分に働く時間が確保できず、腸内環境が乱れる原因になります。質のよい睡眠をしっかりとるのも、健やかなお腹を保つための大切な習慣です。
セルフケアや市販薬を使っても症状が続いたり、日常生活に支障が出たりするときは、何らかの病気が隠れている可能性があります。かかりつけの内科医など医療機関を受診するようにしましょう。
マッサージ・入浴・市販薬といったセルフケアを1~2週間試しても症状が続く場合や、急な激しい腹痛・体重減少・発熱といった症状を伴う場合は、迷わず医療機関を受診してください。
お腹の不調で病院にかかる際は、まずかかりつけの内科医に相談しましょう。かかりつけ医がいない方は、内科や消化器内科で診察を受けるようにしてください。専門医による的確な診断が、根本的な解決への第一歩となります。
健康によいイメージの食物繊維ですが、摂りすぎると逆にお腹の調子を悪化させる可能性があるため注意が必要です。水溶性食物繊維は、一度に過剰摂取すると便が緩くなり、下痢を引き起こす場合もあります。一方、不溶性食物繊維は便のカサを増やす働きがあるため、摂りすぎるとかえって便が硬くなり、お腹の張りが強まる可能性も。
通常の食事で目標量を超えるのはまれですが、健康食品やサプリメントで補う際はとくに注意しましょう。成人が1日に摂取すべき食物繊維の目標量は男性20~22g、女性17~18g以上とされています。ちなみに、玄米ご飯1膳(約150g)に含まれる食物繊維は約2.1gです。バランスのよい食事を心がけるのが基本です。
参照:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書/厚生労働省
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