看護師ライター北村由美
看護師として総合病院、地域病院、訪問看護ステーション等で約30年勤務。超低出生体重児から103歳の高齢者まで看護を経験。
自らが家族の介護を行う中「自分の知識、経験が困っている人の役に立てるのではないか」と考えるようになり、ライターを開始。「読者が共感できる記事」をモットーに医療・健康分野の記事、看護師向け記事を執筆している。
妊娠糖尿病とは、妊娠中のホルモンの変動が原因となる糖代謝異常の一つです。血糖値を下げる働きのあるインスリンが効きにくくなり、血糖値が基準より高くなります。しかし、自覚症状はほとんどないため、定期的な健診が重要です。家族に糖尿病の人がいる場合や、35歳以上の人などは、妊娠糖尿病になりやすいため注意しましょう。かかってしまっても、適切な食事や運動、薬物療法をおこなえば、ママ・赤ちゃんのリスクを予防できます。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見された、糖尿病の診断基準を満たしていない程度の高血糖状態です。通常、妊娠中は妊娠前より血糖値は上がりますが、ある基準を超えると妊娠糖尿病と診断されます。
妊娠中の糖代謝異常はほかに「糖尿病合併妊娠」と「妊娠中の明らかな糖尿病」の2つがあります。
妊娠糖尿病は、糖尿病になりやすい遺伝的な要素に加え、妊娠時のインスリン分泌が不十分であったり、妊娠の経過に伴って胎盤の影響を受けインスリンの抵抗性(効きにくさ)が大きくなったりすると発症します。
インスリンには血糖値を下げる働きがあります。しかし、妊娠中は胎盤から分泌されるホルモンによってインスリンの働きは抑えられ、また胎盤ではインスリンが分解され、アディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモン。インスリンの働きを正常にする作用がある)も低下するため、インスリンが効きにくい状態となり、血糖値が上昇するのです。
妊娠糖尿病は、目立った自覚症状があらわれないため、検査で発見されるケースがほとんどです。高血糖が続くと、ママや赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。気づかないうちに血糖が高くなるため、注意が必要です。
参照:妊娠と糖尿病/国立研究開発法人 国立成育医療研究センター妊娠糖尿病になりやすい人は、いくつかの共通点があります。もし、あてはまる項目があり、妊娠糖尿病のリスクが高いと感じている場合は、早めに主治医にご相談ください。
日本産婦人科学会では、妊娠糖尿病を見逃さないようにするため、すべての妊婦を対象にしたスクリーニング検査を推奨しています。検査内容は、妊娠初期は随時血糖、妊娠中期には随時血糖または50gグルコースチャレンジテストです。
妊娠初期の随時血糖が95~100mg/dL以上、妊娠中期は随時血糖が100mg/dL以上、または50gグルコースチャレンジテストが140mg/dL以上をスクリーニング陽性とします。
前述のスクリーニングで陽性だった場合、75g経口ブドウ糖負荷試験をおこないます。75gのブドウ糖入りのジュースを飲む前の空腹時と、飲んだあと1時間後と2時間後の血糖値を測定する検査です。妊娠糖尿病になりやすい人は、はじめから75g経口ブドウ糖負荷試験をおこなうケースもあります。診断基準は以下のとおりです。
妊娠糖尿病と診断された場合、血糖値を適切な範囲に保つことが、ママと赤ちゃんの健康にとってとても重要です。
そのため血糖コントロール目標を設定し、血糖自己測定(SMBG:self-monitoring of blood glucose)をおこないながら、血糖値を望ましい状態にコントロールしていくのです。
血糖コントロールの目標値は、主治医によって個別に設定されますが、一般的には、空腹時血糖値が95mg/dL未満、食後1時間血糖値が140mg/dL未満、または食後2時間血糖値が120mg/dL未満を目標とします。また、HbA1cという、過去1~2か月間の血糖値を反映する指標は、6.5%未満を目標とする場合が多いです。
血糖自己測定とは、家庭用の血糖測定器(簡易血糖測定器)を使い、日常生活の中で自分自身の血糖値を測る方法です。自宅で血糖値を把握できるため、食事内容や運動、インスリンの量などを見直す判断材料になります。妊娠糖尿病などの妊娠中の場合には、血糖値が妊婦さんにとって望ましい範囲にあるかを確認するため、通常より頻繁に測定が行われます。測定のタイミングや回数は、担当医の指示に従ってください。
参照:妊娠と糖尿病/国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター妊娠糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。血糖コントロールがうまくいかない場合、薬物療法(インスリン療法)が導入されます。血糖コントロール目標と血糖自己測定の数値を見ながら、治療は主治医と相談のうえで進めていくでしょう。
妊娠糖尿病になっても、軽症であれば食事療法で改善できます。食後の高血糖を起こさないようにするだけでなく、食前や夜間高血糖をきたさないように、1日の平均血糖が高くならないように管理していくのです。
運動療法も高血糖の改善に効果的ですが、妊娠の状況によっては控えた方がいいケースもあります。妊娠中の運動は、主治医に確認しておこなうようにしてください。
薬物療法は、食事療法や運動療法で改善しないときや、赤ちゃんが大きく育っているときに導入され、産後には減量や不要になる場合が多いです。
低血糖とは、血糖値が正常域より下がりすぎてしまう状態です。体調の変化があらわれ、極端に低いときは意識障害や昏睡をもたらす恐れもあります。
高血糖を改善するための治療、とくにインスリン治療をおこなっているときには、低血糖のリスクがあることを知っておきましょう。
低血糖症状は初期の段階で、発汗や手足のふるえ、動機、強い空腹感などがあらわれます。進行すると体に力が入らなくなり、眠気や疲労感、集中力の低下などを招きます。対処が遅れると、意識がなくなってしまうケースもあるため、「おかしいな」と感じたら早めに対処するのが重要です。
初期症状があらわれたら、10gのブドウ糖を摂取します。ブドウ糖が手元にないときは、10gの砂糖や糖分を含んだジュースでかまいません。摂取後は15分程度安静にして経過をみます。改善しない場合は再度摂取してください。状況が改善しない場合は、主治医に相談したり、医療機関を受診するようにしましょう。また、外来受診時に、低血糖があったことを主治医や医療スタッフに伝えましょう。インスリン使用中の低血糖はいつ起こるかわからないので、常にブドウ糖を携帯するのが大事です。
妊娠中は血糖値が上昇しやすい状態です。妊娠を望む人や妊娠中の人は、食事や運動、睡眠などの生活習慣を整えて、健康的な生活により意識を高めていきましょう。ママの健やかな毎日は、お腹の赤ちゃんにとっても大切なのです。
また、妊娠糖尿病は、妊娠期だけの一時的な病気です。出産後に改善するケースがほとんどであり、大きな心配はありません。しかし産後糖尿病の発症リスクが高くなっているため、定期的な検診は欠かさず受けましょう。加えて、産後2~3ヵ月頃に75g経口ブドウ糖負荷試験を受けるようにしてくださいね。
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